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2017/02/20

第146回大原美術館ギャラリーコンサート ご来場ありがとうございました

2月18日(土)に第146回大原美術館ギャラリーコンサート「河野克典バリトン・リサイタル ~シューベルト『冬の旅』~」が開催されました。アンコール曲のご紹介です。

第146回大原美術館ギャラリーコンサート
「河野克典バリトン・リサイタル ~シューベルト『冬の旅』~」

出演
河野克典(バリトン)
三ッ石潤司(ピアノ)

■日 時  2017年2月18日(土)18時30分開演

■会 場  大原美術館 本館2階ギャラリー

■曲 目
シューベルト:歌曲集「冬の旅」作品89 D911(全曲)

■アンコール曲
シューベルト:さすらい人の夜の歌 作品96-3 D768
シューベルト:セレナード 作品72-4 D957-4 ~歌曲集「白鳥の歌」より
シューベルト:夜と夢 作品43-2 D827

大原美術館ギャラリーコンサートに27年ぶりの再登場でお迎えしたバリトン歌手、河野克典さんが歌う『冬の旅』全曲リサイタル。リート愛好家のみならず多くのお客様にご来場いただきました。
コンサート会場は通常、ステージを展示室内の東寄りに設けていますが、27年前の出演では北側にステージを置き、奥に長く空間をとる形態だったことから、今回も河野さんの希望でステージ位置を変更、加えて前回もピアノ伴奏された三ッ石潤司さんとの共演で、さながら再現コンサートの趣に。
「客席の皆様の表情を見ながら歌わせていただきたい」との意向により演奏中の照明も落とさず、ギャラリーの名画が四方から静かに見守る中でのリサイタルとなりました。

シューベルトの歌曲集『冬の旅』は、ドイツの詩人ヴィルヘルム・ミュラーの詩にもとづく作品で、恋に破れた失意の若者が町を捨て、さすらいの旅を続けていく姿が描かれます。
シューベルトがミュラーの連作詩「冬の旅」と出会い、歌曲集前半の12曲を完成させたのは、亡くなる前年のことでした。ただし、シューベルトはこの時、ミュラーがのちに12編の詩を書き足して順序を入れ替え、計24編として出版していたことを知らず、書き足された12編への作曲は半年以上たってから開始されました。歌曲集後半にあたる12編の詩は、シューベルトが独自の判断で並べ替えたものです。
私たちが聴く『冬の旅』は、ミュラーが一旦完結させたストーリー(12詩編)が前半で描かれ、後半は、詩人が最終的に意図した物語性とは異なる展開で表現されていることになります。
河野さんによると、歌い手からすれば前半は気持ちがスムーズに持続していくけれど、後半は詩の世界の連続性が薄いので、表現のモチベーションを維持していくのは簡単ではないのだとか。
前半から後半に至り、各場面が明快な起承転結で結びついていないことからくるある種の不安定さが、歌の中で主人公の漂泊をいっそう捕らえどころのないものにしている、と見ることもできるでしょう。
シューベルトの真意はともかく、「死」に慰めを求めて旅する若者の孤独は、社会から孤立しがちな現代人のメンタリティに強く響くものがあります。豊かな歌声の導きによって、主人公の旅は聴き手の心に引き継がれ、私たちそれぞれの人生の中で、これからもずっと続いていく旅になるのかもしれません。
当夜のベヒシュタイン・ピアノの音色も格別の味わいでした。三ッ石さんとの完璧なコンビネーションでドラマの情景を丁寧に描き出し、“ひとりで歌うオペラ”の醍醐味を堪能させてくれました。

休憩なしで1時間20分近く、全24曲を歌い終わってカーテンコールに呼び戻された河野さんから、改めてご挨拶が。そして、「本来ならこのあとはもう歌わないのですが(笑)、この会場に再びお招きいただいたこと、大原さんやスタッフの方々、そして本日お越し下さった皆様に感謝の気持ちをこめて」と、アンコール曲としてシューベルト歌曲を3曲も歌って下さったのは、本当に嬉しい歌の贈り物でした。

終演後は河野さんのサイン会。お客様ひとりひとりの名を記しながら気さくに談笑され、列に並んだお客様の中には「27年前の公演を聴きました」という方もあって感慨ひとしおの様子でした。

♪次回ギャラリーコンサートは4月15日(土)
第147回大原美術館ギャラリーコンサート
「郷古 廉(ごうこ・すなお)ベートーヴェン ヴァィオリン・ソナタ全曲演奏会 Vol.1」です。
今年から3年間、春のギャラリーコンサートで、郷古さんのベートーヴェン・シリーズをお届けしていく予定です。ご期待下さい。

河野克典 Ⓒ武藤章

「冬の旅」を歌い終わって、さらにアンコールで3曲も。

サイン会で談笑する河野さん。