くらしきコンサート

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2005/08/01

大野和士 インタビュー 東京オペラシティArts友の会会報 tree vol.50より抜粋

ベルギー王立歌劇場(モネ劇場)管弦楽団と凱旋公演
「日本人の指揮者として、どのジャンルのスペシャリストにもなり得ないことを、逆に自分のアドヴァンテージとして位置づけたい」

Q:モネ劇場のオーケストラはどのようなキャラクター、サウンドをもっているのですか?

A:最初に共演したのは99年、若い歌手のためのガラ・コンサートのときでしたが、まず驚かされたのは、オーケストラの色彩のパレットの豊かさです。曲それぞれに異なるキャラクターやヴォキャブラリーが必要だったのですが、それをみごとに描き分けて曲のスタイル、カラーに対応する能力に感心しました。オペラの仕事でもそれがより深まっていっています。オーケストラのコンサートは年間6プログラムあり、そのうちに3プログラムを私が指揮しますが、さまざまなレパートリーを広範囲に取り上げています。

Q:いろいろな時代、いろいろなキャラクターのものをバランスよくプログラミングされているということですね。

A:これは私の生き方に関係することですが、日本人の指揮者として、どのジャンルのスペシャリストにもなり得ないことを、逆に自分のアドヴァンテージとして位置づけたいと思っているんです。そのためにもバランスのとれたプログラミングがとても重要です。いろいろな文化が交差するベルギーという国、ブリュッセルという都市の宿命も、これに通じるものがあるのではないかと思います。

Q:今回演奏される「マーラー」のシンフォニーについてお聞かせください。

A:オペラ劇場のオーケストラがマーラーを演奏するというと意外に思われるかもしれませんが、このオーケストラの音色の多様さ、さまざまなスタイルに対応できる能力、そしてたくさんのオペラ経験から、テキストをもつ音楽への感受性は当然高くなっているわけで、そういうことを考えますと、「オペラのオーケストラであるが故のマーラー」ということができると思います。逆にいえば、シンフォニー・オーケストラ以上に、マーラーの本質的な部分を理解できると確信しています。
5番を選んだのは、この曲に新しい血を注ぎ込みたいという気持ちから。このオーケストラ、5番を20年くらい演奏していないんですよ。私が定期演奏会でデビューしたのが7番で、就任披露で2番《復活》、ほかの作品も前のシーズンまでにプログラムに入っているのですが、なぜか5番は、20年来演奏されてこなかった。つまり5番をやったことのある若い楽員がいない、ということですから、ここでぜひ新しいマーラーをめざしたいと思っています。

Q:最後に公演への抱負をお聞かせください。

A:オペラ劇場の仕事を始めてから、物理的に日本に帰る時間をとることがむずかしくなっています。いまモネ劇場では年間4本のオペラを指揮していますが、練習、公演を含めて合計で7ヶ月以上拘束されることになり、そのほかの時間を準備やオーケストラの演奏会にあてていますので。昨年の体の故障もあって、日本での演奏は、ずいぶん時間があいてしまったと感じています。今回、満を持してのぞむ公演で、これまで私が熟成してきたものを、ぜひじっくりお聴きいただきたいと思っています。

指揮者 大野和士