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2017/09/16

第148回大原美術館ギャラリーコンサート ご来場ありがとうございました

9月16日(土)に第148回大原美術館ギャラリーコンサート「ザ・イマイ・ヴィオラ・クァルテット」が開催されました。アンコール曲のご紹介です。

第148回大原美術館ギャラリーコンサート
「ザ・イマイ・ヴィオラ・クァルテット」

出演
今井信子(ヴィオラ)
ファイト・ヘルテンシュタイン(ヴィオラ)
ウェンティン・カン(ヴィオラ)
ニアン・リウ(ヴィオラ)

■日 時  2017年9月16日(土) 18時30分開演

■会 場  大原美術館 本館2階ギャラリー

■曲 目

ダウランド(小早川麻美子編曲):もし私の訴えが
野平一郎:≪シャコンヌ≫~ヴィオラ四重奏のための(2000)
――J.S.バッハの“無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番”BWV1004による
バルトーク(ルドゥメーニ編曲):トランシルヴァニアの夕べ
バルトーク:44の二重奏曲 BB104(Sz.98)より

* * * * *

杉山洋一:ヴィオラ四重奏のための「子供の情景」(原曲:R.シューマン)より【大原美術館委嘱作品】※世界初演
ピアソラ(小早川麻美子編曲):「タンゴの歴史」より  売春宿 1900 / カフェ 1930
ピアソラ(小早川麻美子編曲):エスクアロ(鮫)

 

■アンコール曲
シューベルト(北村朋幹編曲):君はわが想い

 

大型台風の接近で心配された16日の公演は予定通りおこなわれ、多くのお客様にご来場いただきまして、無事終演いたしました。お運び下さいました皆様に厚く御礼申し上げます。
ご遠来の方もいらっしゃいましたが、その後、大事ございませんでしたでしょうか。
各地で被害に遭われました方々には、心よりお見舞い申し上げます。

“ヴィオラだけの四重奏”。その独特の響きに魅了された世界的ヴィオリスト今井信子さんが、活躍目覚ましい3人の若手奏者たちとクァルテットを組んで来日。演奏レパートリーが少ないヴィオラ・クァルテットのためにと進められてきた<大原美術館委嘱作品>の世界初演が、ツアー初日の倉敷公演でおこなわれました。
本番3日前から倉敷入りしたメンバーは、到着後、休憩もそこそこに練習を始め、食事の時間も惜しんで新曲に取り組んでいました。シューマンのピアノ小品集『子供の情景』をベースにした新作は、譜面が完成してまだ日が浅く、しかも今井さんたちでさえ手こずる超難曲とのこと。メンバーは連日、演奏者として“産みの苦しみ”に向き合い、そして、ついにお披露目の日を迎えました。

期待がふくらむ開演。冒頭から、古い時代のイギリス歌曲やバッハのパルティータを新しい生命力で輝かせる、ヴィオラ・アンサンブルの新鮮な美しさが耳を洗います。
ヴィオラならではの深い音色が重なり合って生まれるハーモニーは、ときに重厚で、ときにやわらかく、豊かな響きがたちまち会場を心地良い波動で満たしていきました。
バルトーク2曲は今井さんの解説付きで、バルトーク自身によるオリジナル版のピアノ演奏と、ハンガリー民謡の古い音源が会場に流されました。特にバルトークの二重奏曲に関して、今井さんはメンバーのウェンティン・カンさんと実際にハンガリーに赴き、現地の民謡やリズムを学んできたのだそうです。ヴィオラの中低音が音楽の奥に息づく哀愁を際立たせ、4人の掛け合いによって叙事詩のように紡がれていたのが印象的でした。

後半1曲目、いよいよ新曲の初演です。
シューマンの、あの愛らしいおなじみのメロディが時おり聴きとれるものの、これはもうまったく新しい世界観で生まれ変わった作品と言って良いのではないでしょうか。
シューマン曰く「子ども心を描いた大人のための音楽」という原曲の視線は、新曲ではどちらかと言えば子ども自身の感覚・感情寄りにアレンジされていて、じっとしていられない好奇心や天真爛漫な様子が、演奏技巧による不思議な浮遊感とともに表現されます。
『お化けが来るぞ』と題された曲では、演奏者の口笛も音楽の一部。技巧を凝らしたパフォーマンスで、子どもをめぐるさまざまなシーンの中に、少年期の想像力と自由な感性が描写されているようでした。
この日、客席最前列には作曲者・杉山洋一さんの姿がありました。お忙しいスケジュールにもかかわらず、メンバーと同日の倉敷入りで初演に立ち会って下さり感謝に堪えません。演奏を終えた4人が手で示す先に、杉山さんが笑顔で立ち上がり一礼、場内は一段と大きな拍手に包まれて、初演の成功を皆様と分かち合うことができました。

プログラムの最後は、アルゼンチンの天才バンドネオン奏者ピアソラの作品を、ヴィオラ演奏で味わいます。
タンゴの革命児と呼ばれたピアソラは情熱とノスタルジーを絶妙に溶け合わせ、そこに立ちのぼる洗練された美しさによってクラシックの世界でも旋風を巻き起こしました。既存の価値観から飛び立ち、新たな地平を目指したピアソラの音楽は、このヴィオラ・クァルテットという意欲的な活動の船出にとっても象徴的な選曲だったかもしれません。

全曲を弾き終え、鳴りやまない喝采に呼び戻された4人がアンコールで演奏したのは、シューベルトのロマンティックな歌曲でした。
編曲は、大原美術館ギャラリーコンサートに過去2回登場いただいた若手ピアニストの北村朋幹さん。まだ20代半ばの彼が演奏家としての活躍にとどまらず、音楽への探究心と卓越した解釈で作曲・編曲にも才能を発揮している頼もしい成長を音楽に重ねて、ひときわ感慨深い演奏になりました。

倉敷で産声をあげた新曲が、これから今井さんに連なる次世代のヴィオリストたちによって世界へ広がり、また大切なレパートリーとして未来へ弾き継がれることを祈りながら、初秋の夜に静かに広がるヴィオラの余韻を胸に刻んだコンサートでした。

 

♪次回ギャラリーコンサートは10月20日(金)
第149回大原美術館ギャラリーコンサート
「堀米ゆず子(ヴァイオリン)&ジャン=マルク・ルイサダ(ピアノ)デュオ・リサイタル」です。
30年来の友人である二人が、11年ぶりに日本でデュオのツアーをおこないます。
お楽しみに!

アンコールはシューベルトの歌曲から。

人の声に近いヴィオラの音は「歌」と相性が良いようです。